子供の頃から海と小動物と機械が好きでした

時計は機械が鼓動する不思議な生き物に見えていた

そんな不思議な生き物が好きで２０代の半ばに時計工場で
時計製造に携わりながら、もう一つの夢だったプロダイバーを目指していた


レジャーダイバーと違いプロダイバーはソロ（単独潜水）が多い
相棒は身に付けた機材達だけ

そんな私にとって時計は時刻を知る道具ではない、命を計る計器だ

俺の命はあと何分だ？と問うと
あと何分ならこの水深に留まれるぜ！
そう答えてくれる信頼できる相棒


先輩のＡ氏と、とある海域で作業した時にぼそっとＡ氏が呟いた
『あいつ・・・　ここに眠ってるんだ』

「あいつ　って？」
『俺の３００ｍ』
「セイコーの？」
『あいつが居なかったら、俺が眠ってるか
この右手ぶった切るしかなかったんだ・・・　』

作業中に落下してきたブロック（水中重量約２トン）に右手首を挟まれて、
時計が犠牲になり救われたらしい
（龍頭で手の甲に穴が空く事があるのでプロダイバーは右時計が多い）


絶対に信頼を裏切ってほしくない相棒
それが時計だった

オーバーホール中は実家に帰っていると
言い切る海の男達にとって時計は妻

うちのカカァであり、うちのオッカァであり、うちのカァチャンだ
着飾ってなんかいてくれなくって良い
俺の傍に居てくれるだけで・・・


ファッションを否定するつもりはない
自己を主張する手段なのだから・・・